急性期治療を中核にした都市型の精神科病院

医療法人聖和錦秀会 阪本病院

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「ファウスト」ゲーテ

はじめに
 悪魔に魂を売ったといわれている、ブルースマンがいる。ロバートジョンソンである。彼が60年代ブリティッシュロックに与えた影響は非常に大きい。ローリングストーンズや、エリッククラプトンなど、彼の曲をロック風に解釈して数多くのヒットを飛ばした。聴いてみたことがあるが、確かに、ギターテクニックやその歌声など、悪魔的だと言われればそのような気がする。四辻(クロスロード)でブルースのスピリットを得るために、悪魔と契約を結んだという。最期の詳細が不明なのも、悪魔に魂を売り渡した、の伝説にふさわしい。(なぜこの話から始めたかと言うと、今回のブログが、音楽サークル担当だからです)
 さて、その大先輩と思われるのが、16世紀にドイツにいたとする、伝説の錬金術師ファウスト博士である。悪魔を呼び出して契約し、世界の真実を知ったが、最後は破滅した、という伝説である。ファウスト博士が実在したかどうかは不明だが、伝説として広まっていたのは確かである。実際は、錬金術の実験で、薬品の調合を間違えて爆発させてしまい、五体バラバラで発見されたというのが真相と言われているが、それも本当かどうかは今さら確かめようがない。
 数多くの文学等の芸術作品で主題として扱われている。オペラやバレエにもなっているが、有名なのは、ゲーテの戯曲だろう。ゲーテの前にイングランドのマーロウが戯曲化していて、私はその邦訳(なんと、あるのです!)を図書館で借りて読んだことがあるが、最後は伝説通り、五体バラバラになって死んでしまうという悲劇だった。

ゲーテについて
 日本におけるドイツ文学は不毛だという人がいる。ロシア文学、イギリス文学、フランス文学に比べると、かなり影が薄い。戦前はそうでもなかったらしいのだが、研究者もあまり多くいないらしくて、しかも研究者も、みんなゲーテばかりやりたがるらしくて、埋もれた傑作が翻訳されたり、現代の作家が紹介されたりと言うことがあまりない。
 それでも、やっぱり、ゲーテはすごいと思う。実はあんまり知らないけど、なんとなくそう思う。いろんなことを言っているしね。よく”ゲーテ曰く・・・”と格言でよく出てくる。
 人生のあらゆる面で、それにぴたりと当てはまるゲーテの格言があるそうだ。”ゲーテはすべてのことを言っている”という格言があるくらい。

ゲーテ作「ファウスト」について
 さて「ファウスト」なのだけど、実はかなり難しい。読む前から漠然と、難しいかも、とは思っていたのだが、案に違わず難解である。これを、そんなことはない、簡単だったよ、面白かったよ、と言ってくる人があるかもしれないが、絶対に信用してはいけない。
 前から思っていたのだが、偉い学者さんや評論家さんが何人も「ファウスト」に言及したりするのだけれど、だれ一人として、その言及の内容で「ファウスト」を読みたくなった、なんてことが起こった試しがない。小難しい話をこねくり回して、なにか、わかったような、わからんような、読んでなきゃ全然イメージが分からないような、読んでいると本当に「ファウスト」のことを書いているのかと疑ってしまうような、話に始終していたりするのである。だから、そういった学者や評論家の言っていた事は「ファウスト」を読む上で障害になるので、いったん忘れよう。
 頭をまっさらにして、「ファウスト」に臨もう。
 そこで、私の能力の及ぶ範囲で、読んでいない人のために、”読みたくなって”かつ”読みやすくなる”「ファウスト」の紹介をしたいと思う。

「ファウスト」の予備知識
 実際の予備知識は、ネットか文献を当たっていただくとして、どのような種類の予備知識があれば便利か挙げておく。ただ、予備知識があれば、もっと楽しめるかも、って言うだけで、予備知識がなくても十分読める。それに難解な部分は予備知識があったとしても、かなりの努力をしないと読み解けない。
 まず、ギリシャ神話の知識があった方がいい。ヘレナが主要な登場人物として出てくるので、パリスの審判、トロイ戦争等々の知識は備えておいた方がいいだろう。私はブルフィンチの「ギリシャ神話」を座右において、ところどころ繙いた。
 ちなみに、世界3大美人は、西欧では小野小町の代わりにヘレナが入るのだそうだ。
 「ファウスト」を読んだ後で、オウィディウスの「変身物語」を読んだのだが、読み終わってから「変身物語」を踏まえたギャグが「ファウスト」にあったのに気づいた。まったく油断ができない。ここで以外に思われた方がいるかもしれないので、書いておくが、結構笑えるところがあったりする。ファウストや他の登場人物が澄ました話をした後に、粗野で下品なメフィストが登場すると、一挙にそのお上品な場面が崩壊してしまうので、それだけで笑えたりする。ギリシャ神話も、当時の読者にとっては、当たり前の知識だったから、「ファウスト」にちりばめられたギリシャ神話のパロディを、即理解して笑ったことと思う。
 悪魔や天使、主(キリスト教の神)が出てくるので、キリスト教的世界であるのは間違いないのに、どうしてギリシャ神話が出てくるのだと違和感を持ってはならない。そういうものなのだ。あまり深く考えないように。
 そういえばダンテの「神曲」でも、ギリシャ神話とキリスト教的世界が融合していた。ギリシャの哲人たちがリンボにいたりするのだ。偶像崇拝だけどキリストが生まれる前だったので、というのはちと酷なような気がするが。
 あとは、当時の思想的背景。錬金術とかもね。ゲーテは汎神論者だったという。いわゆる”神即自然”と言うやつ。自然の原理を追究することが、神に至る早道になる。したがって好奇心が称揚されるのである。
 翻訳はいろいろ出ているが、私は新潮文庫版、高橋義孝訳で読んだ。以下の「ファウスト」作中の固有名詞は、新潮文庫版に沿う。私の版は原文と対照できる行番号が振ってあって便利だったのだけど、古い版なので、新しい新潮文庫版でも振られているかはわからない。あとは、岩波文庫や集英社文庫、中公文庫等あるが、有名なのは森鴎外訳かな。岩波文庫に収録されているが、著作権が切れているのでインターネットの青空文庫でダウンロードできる。鴎外訳「ファウスト」の基本は口語訳なのだけど、詩のところが文語になっているので、読みにくい。しかし日本の近代文学に対する「ファウスト」の影響を考察するには、森鴎外訳を読むべきだろう。

難解なところ
 わたしゃ、読む前にこれを教えてほしかったな。
 まず第一部。
 ほとんどの人はすらすらと読めて、しかも面白いと思うのではないだろうか。グレートヒェンのかわいそうな運命に涙すると思う。
 第一部で厄介なのは、後半の「ワルプルギスの夜」の場面。登場人物がいっぱい出て、いろいろ象徴的な意味もありそうだが、これを読み解くのは一筋縄ではいかないだろう。だけど最悪読み飛ばしても本筋に影響はない。
 でも第二部はかなりきつい。その中でもしんどいのが、第一幕の「皇帝の居城」、「沢山の次の間を持った広大な会堂」の場面。謝肉祭の出し物を「ファウスト」の登場人物が演じるわけだが、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」を踏まえていて、いろいろな予備知識がないと、とてもとても読み進めることができない。第二部で挫折する人が多いらしいのだが、大体この場面でやめちゃうのではないかしら。しかし、ここを過ぎればわかりやすい場面が続く。
そのあとは、第二幕の「古代のワルプルギスの夜」の場面だが、ここは、「ファウスト」中で一番の難関である。難解、かつ長い。読んでも断片的にしか理解できないし、登場人物が多くてこんがらがる。ただ目で文字を追っているという感じだった。
 とはいえ、第一部、第二部とおして、難解なのは上記のこの3つの場面だけである。しかも、あまり本筋に関係はない場面ばかりなので、これらの場面を読み飛ばしても本編を読み進めることができる。

その他に
 マルガレーテとグレートヒェンは同じ人物である。何のこと、と思わないで、とりあえず、覚えておこう。「ファウスト」を読み進めるときにきっと役に立つから。

見どころについて
 実は、主人公のファウストに人間的魅力はない。これは、一読すればだれでも得る感想じゃないだろうか。作者も意図的にそのように書いていると思う。
 メフィストフェレスが一番魅力的である。ダークヒーローである。ファウストの衒学的な話を一蹴し、ファウストの仮面を引きはがして、一挙に彼の俗な部分をむき出しにする。その痛快なこと。
第二部で登場するホムンクルスがかわいい。最後どうなったのだろうか。私はちょっと分からなかった。

で、面白いか?
 うーん、と言うところですな。
 第一部はそれなりに面白いが、第二部は良くわからんかったしな、というのが正直なところ。難解なので、いろいろと勉強していけば、もっと読み解けるところも出てきたりして面白くなるかもしれない、といった期待はあるけど。

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更新日:2013年05月29日
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